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不登校だった精神科医、39歳でミスコンに挑戦した理由 「苦手を得意にする努力が、前を向く自信をくれる」

2021.05.20

2021.06.12

不登校だった精神科医、39歳でミスコンに挑戦した理由 「苦手を得意にする努力が、前を向く自信をくれる」

モデル顔負けのスタイルに知的な美貌。2020年に2つのミスコングランプリを獲得した洞口千加(ほらぐち・ちか)さんは、地元の愛知県で「ちかメンタルクリニック」の院長をつとめる39歳だ。ディレクターとしてミスコン現場にかかわる筆者がミスコン出場者の葛藤と成長をお届けする連載、今回の主役は彼女。幼いころ不登校に悩んだ経験から精神科医になったという千加さん。ハイヒールもはいたことがなかった彼女がミスコン挑戦を決意し、心身ともに美しく変わっていく姿を追った。

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不登校だった小学生時代、救いになった恩師の存在

▲大会当日、スピーチ審査で精神科医としての夢を語る千加さん

「小学生のころの私は、いわゆる問題児。コミュニケーションが下手で、まともに小学校に通えた日は数えるほどでした。そんな私が毎日のように人と関わる仕事をしているんですから、人生わかりませんよね」

そう言いながら、屈託のない笑顔をこちらに向ける千加さん。コンテストではステージに映えた長身も、彼女にとっては長年のコンプレックスだったという。背が高いのが目立たないように、常に背中を丸めて首をかしげ、ひざを曲げていた。あまりの猫背ぶりに、座っていると長身だとは誰にも気づかれないほどだった。

話しかけてくれる担任の先生にもほとんど口を開かず、千加さんはそのまま小学校のほとんどの期間を不登校で過ごした。そんな彼女に状況を打開するきっかけをくれたのは、保健室の先生だったという。その先生は学校に行きたいけれど勇気が出ない千加さんを、毎日家まで迎えに来てくれた。

「その一歩が、私にとってはとても大きかった。徹底的に寄り添ってもらえたことで、前向きな気持ちになれたんです。それからはコミュニケーションへの苦手意識を克服するために、試行錯誤の日々がはじまりました。一番きいたのは、マネをすること。人付き合いが上手な友だちの立ち振る舞いを観察し、それをすぐに実践しました。そうするうちに友だちが増え、人と接するのが大好きになったんです」

ミスコン出場は「苦手を得意するための挑戦」

▲ハイヒールにドレス。コンテストは初挑戦の連続だった

「それまでの私は美容に疎く、背が高いことへのコンプレックスからハイヒールもはいたことがなかった。ミスコンは苦手中の苦手と言っても過言ではありません。それでも、この一歩は踏み出さなければダメだと感じた。自信はまったくなかったけれど、エントリーに迷いはありませんでした」

ハイヒールを買うこと、ドレスを着ること。千加さんにとってコンテストへの日々は初挑戦の連続だったが、それだけではない。ウォーキングの練習をはじめれば、まるで竹馬に乗っているかのような不自然なフォームに。長年の習慣で染みついた姿勢は、そう簡単には抜けなかった。いくら意識しても、ふと鏡をみると自信なげに身をかがめている自分がいた。

「歩くというのは日常の動きだから、意識して変えられるものじゃない。だから体が覚えるまで、何度も何度も練習しました。ウォーキングをはじめてから気づいたのは、同じ人でも歩き方ひとつでまったく違って見えるということ。背筋を伸ばして歩いていると自信があるように見えるし、印象もいい。そうこうしているうちに気持ちも前向きになり、本当に自信がついてくる。嫌いで仕方なかった背が高い自分を、だんだん好きになっていました」

▲両手を上げてグランプリ獲得のよろこびを表現(右から3番目)

大会当日、選んだのはマーメイドラインが美しいゴールドのドレス。背筋を伸ばして颯爽と歩く千加さんは、またひとつ苦手を克服したという自信にあふれていた。結果、彼女は見事グランプリを受賞し、ミセス・インターナショナル パンパシフィック代表に就任。世界大会への切符を手にした。授賞式では両手を大きく上げてよろこびを表現。長身を隠そうと身をかがめる以前の千加さんは、そこにはもういなかった。

「エントリーしてからは、今までの私からは予想もつかないような出来事が、次から次へと訪れました。たくさんの出会いに恵まれ、ドレスやハイヒールを買ってウォーキングの練習をはじめ、ステージに上がってグランプリを受賞――。自分で決めたことだけど何かに流されているような、不思議な感覚です。最初の一歩さえ踏み出せば、あとは自然と導かれる。人生ってそういうものなのかもしれないと、あらためて思いました」

「ちょっと相談しに精神科へ」がふつうの社会に

▲精神科をもっと身近な存在に。千加さんの挑戦は続く

日本大会をへて千加さんは、今目の前にあるものの大切さを、より強く感じるようになったという。信頼するスタッフと仕事ができること。家族と食卓を囲む時間。朝気持ちよく目ざめられて、食事がおいしいこと。たわいもない話ができる友人の存在。そういう「当たり前」のすべてが、とてもありがたい。

「若いころの私は常に、どこかにあるしあわせを探していた。でもしあわせって案外、身近なところにあるものなんですね。大事なのは、それを感じ取れる心を持っているかどうか。ミセス・インターナショナルを通して過去の自分と向き合うなかで、それに気づくことができました」

精神科医としてもそういうしあわせを感じて生きられる人をふやしていきたいと、千加さんは考えている。特に高齢の人にとって、メンタルクリニックの敷居はまだまだ高い。周囲の目が気になる。病気と診断されるのが怖い。薬を飲み続けるのが不安だ。そんな思いから、悩みをかかえながらも受診しない人が多いのだという。

「この仕事をしていて一番悲しいのは、初診予約ののち、来院することなく命を絶ってしまう方の存在です。一度でも相談に来てくださっていたら、何かが変わっていたかもしれない……。そう思うと、悔やまれてなりません。

メンタルクリニックを、すべての人にとって身近な相談の場にしたい。精神科はけっして特別な場所じゃないと、幅広い年代の人に知ってほしい。そんな思いをこれからも発信しつづけ、日々の治療に反映していきたいと思っています」

厳しい状況にもめげず苦手を克服し、自信に変えてきたという千加さん。しかし、彼女が魅力的なのは弱点が減ったからではない。自分を認めたいともがき、悩みつつも奮闘する姿に、誰もが自分を重ねて共感するからだろう。千加さんはきっとまた新しい気づきを得て、次の挑戦の舞台に立つ。その日はもうすぐそこだ。

伊藤 桜子 Sakurako Ito

ローズ・クルセイダーズ/一般社団法人国際女性支援協会 代表理事外資系航空会社の客室乗務員を経て、外資系投資銀行勤務。Best Body Japan 日本大会グランプリ(クイーン)/ミセス・インターナショナル2015 日本代表を務めた経験を持つ。みずからの経験をもとに、年齢や立場、国籍などの枠にとらわれない女性の美を追求する。

編集協力/株式会社Tokyo Edit

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COLUMNIST

伊藤 桜子