Pageant

63歳の国際派アナウンサーがミスコン出場で見た景色 「いつまでも美しく、人生をたのしんでいたい」

2021.05.20

2021.06.12

63歳の国際派アナウンサーがミスコン出場で見た景色 「いつまでも美しく、人生をたのしんでいたい」

一度聞いたら忘れられない、やさしい声。声の主は、元NHK RADIO JAPANアナウンサーの鈴木まことさん(63歳)だ。ディレクターとしてミスコン現場にかかわる筆者がミスコン出場者の葛藤と成長をお届けする連載、今回の主役は彼女。過去に浸ってばかりの日々から抜け出してミスコンに出場し、見事60代部門のグランプリを獲得したまことさん。60代にしてはじめて尽くしだった挑戦の日々は、彼女をどう変えたのか。

「ミスコンの舞台裏」連載一覧はこちら

60代、ずっと忘れていた「自分の人生」

▲笑顔を取り戻したまことさん。写真への苦手意識も克服

「還暦を越え、気づけば63歳。若いころの思い出にひたってばかりの毎日を送っていました。自分が夢を追いかける人生は終わったと、勝手に思い込んでいたんです。ミスコンに挑戦することが決まってから、私は自分の人生を取り戻しました。やっとセカンドライフをはじめることができたんです」

まことさんは、しみじみとした表情でそう言った。一度聞いたら忘れられないような、明るくやさしい声。彼女は以前、NHK RADIO JAPANのアナウンサーとして、世界各国に向けたさまざまな番組を担当していた。 世界には、紛争下の生活で明日もわからない人々、突然の災害に遭い不安な日々を過ごしている人々がいる。まことさんは報道のなかでそのことを知った。自分の声で、傷ついた人たちを少しでも元気づけられたら。その一心で仕事に打ち込んだ。

「あのころの私は、使命感に燃えていたと思います。じゃあ、今は? 今の私でも、誰かの心を明るくすることができるのかな。そんな“本物の美人”になりたい。ミセス・インターナショナル/ミズ・ファビュラス(以下、ミセス・インターナショナル)への挑戦は、そう考えはじめるきっかけになりました」

歳を重ねた人の「美」は立体的である――まことさんはそう考えている。さまざまな経験をしたからこその知見の深さや包容力。物事をあるがままに受け止める、やさしさと強さ。そういういろいろな要素が折り重なった層のようなものが、まさしく美なのだ。それは若いころもっていた初々しさや、みずみずしさとは違う。でも同じくらい、いやそれ以上に尊いものだと、彼女は信じている。

ランウェイでは「ショーの主役」になりきった

▲パートナーとアルゼンチンタンゴの練習。エレガントな世界観に没頭

プライベートでのまことさんは、社交ダンスとアルゼンチンタンゴに夢中だ。ミセス・インターナショナルの存在を知ったのも、ダンスで切る衣装を選びにドレスショップを訪れたときのことだった。情熱的な音楽にのせて、男性のリードを女性がフォローする。そのくり返しが織りなすストーリーが、見る人をそこはかとなく引き込んでいく。まことさんはたちまち、そのエレガントな世界観の虜になった。

「ダンスを踊っていると、身体のすみずみまで意識が行き届きます。どう身体を使えばイメージ通りの動きになるのか。パートナーとペアで練習するほかにも、1人で踊ってみたり、壁をパートナーに見立ててみたりすることもあります。そのひとつひとつが相乗効果を生んで、また一段と上手になっていく。これだからダンスはやめられませんね」

まことさんにとって社交ダンスやアルゼンチンタンゴは、もはや自分の一部。コンテストで披露するウォーキングにも、やはりその要素を取り入れたかった。ランウェイを歩いてステージの真ん中まで行き、魅力的な表情でポーズを決めたあと、美しく去っていく。その一連の流れをストーリー仕立ての短いショーのように演じることを、彼女は目指していた。

▲大会当日はダンスの要素を取り入れたウォーキングを披露

ダンスの先生、ウォーキングの先生、ステージでの魅せ方を熟知しているコンテストの先輩たち。たくさんの方々の力を借りて、まことさんの猛練習がはじまった。レッスンを受けていないときには、大きな鏡で自分の身体や姿勢をくまなくチェックした。息つく暇もない多忙な日々だったが、彼女にとってはたのしい時間だったという。

「ランウェイで自分をどう見せようか。どんなふうに歩き、ポーズを決めれば、ショーの主役のように見ている人を魅了できるのか。そんなことを考えているとたのしくて、時間を忘れるほどでした。考えるのはいつも“今”と“未来”のこと。過去の思い出にひたってばかりいた私は、もういませんでした」

大会当日、まことさんが選んだのは、美しいボディラインを引き立てるベージュのドレス。ステージでは、流れるように優雅なパフォーマンスで観客を盛り上げた。スピーチ審査で訴えたのは、心が健康であることの大切さ。コンテストという挑戦を通じて前向きな気持ちを取り戻し、まばゆいばかりのオーラを放つ彼女の訴えは、説得力にあふれていた。まことさんは見事、60代部門のグランプリを獲得した。

いつまでも人生をたのしめる自分でいるために

▲60代部門のグランプリを獲得し、ステージでほほえむまことさん(中央)

「私、おばあさんになってもドレスを着て、踊り続けていたいんです。いつまでも人生をたのしんでいたいし、すべての女性にそうであってほしい。コンテストに出場して、自分の本当の気持ちに気づくことができました」

まことさんはそう言って、大会の興奮をふり返った。現在彼女はアナウンサーとしてだけではなく、スピーチトレーナーとしても活動している。ともにステージに立ったコンテスタントたちのように、自分の信念を発信できる人をふやすためだ。そのかたわら、いつまでも健康な足腰を保つためのウォーキング法を研究。インストラクターとして指導する日に向けて、着実に準備を進めている。

「今、新型コロナウイルスの感染拡大が世界、そして日本にも暗い影を落としています。心が不安定になり、孤独に打ちひしがれている人も少なくないでしょう。こんなときこそ心身を健康にして、目の前の物事をたのしむ気持ちを取り戻すことが大切。そのことを少しずつでも発信しつづけ、広めていきたいと思っています」

まことさんは自分に言い聞かせるように、強くそう言った。1人の女性ができることは小さい。でも、それぞれが未来に希望をもって歩き出せば、世界を動かすような大きなパワーになるかもしれない。手を取り合って、みんなで明るい未来を見に行こう。ステージでほほえむ彼女を見ていると、知らず知らずのうちにそんな気持ちになっていた。

伊藤 桜子 Sakurako Ito

ローズ・クルセイダーズ/一般社団法人国際女性支援協会 代表理事外資系航空会社の客室乗務員を経て、外資系投資銀行勤務。Best Body Japan 日本大会グランプリ(クイーン)/ミセス・インターナショナル2015 日本代表を務めた経験を持つ。みずからの経験をもとに、年齢や立場、国籍などの枠にとらわれない女性の美を追求する。

編集協力/株式会社Tokyo Edit

1,758 view

COLUMNIST

伊藤 桜子