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いじめ経験のつらさを音楽活動に昇華 39歳のシングルマザー・シンガーがミスコン出場で学んだこと

2021.05.20

2021.06.12

いじめ経験のつらさを音楽活動に昇華 39歳のシングルマザー・シンガーがミスコン出場で学んだこと

シンガーソングライターとしてCDをリリース、関東各地でライブを開催するかたわら、セラピストとして2店舗を展開。昨年は著書を出版するなど、マルチな活動を行う天路恵梨(あまじ・えり)さん(39歳)。明るくパワフルな彼女だが、いじめを受けていた過去もあるという。ディレクターとしてミスコン現場にかかわる筆者がミスコン出場者の葛藤と成長をお届けする連載。第4回は、そんな恵梨さんのミスコン挑戦と知られざる素顔に迫る。

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いじめ、高校生での妊娠 波乱の半生をへてミスコン出場

▲ライブで観客の声援に応え、パフォーマンスをする恵梨さん

「世界じゅうの女性を笑顔にしたいって、昔からずっと思ってきたんです。もっと自分の可能性を信じて、心がときめくものを選んで生きてほしい。1人でもたくさんの人にそれを伝えたいという一心で、今まで音楽活動をしてきました」

恵梨さんはまっすぐな瞳で、そう語ってくれた。幼少期は合唱団で音楽を学び、ダンススクールに通っていた彼女。いじめを受けて絶望のどん底に落とされたときも、音楽が傷ついた心に寄り添ってくれた。テレビでみた安室奈美恵さんのパフォーマンスに感銘を受け、「自分も歌とダンスで誰かを元気にする存在になりたい」と決意した恵梨さん。高校生にして妊娠が発覚したのは、そんな矢先のことだった。

▲「悩んだときは、自分の心の声にしたがう」。それが恵梨さんの人生の指針だ

「生活も心身の状態も、それまでとはガラリと変わって。子どものために、夢をあきらめて育児に専念することも考えました。でも人生は一度きりだから、本当にやりたいことは続けようって。もちろん100%の力を注げない時期もありましたが、無理にあきらめなくて本当によかった。悩んだときは、自分の心の声にしたがう。私の生き方の指針は、このときの経験から来ています」

恵梨さんは、今年20歳を迎えた娘をもつシングルマザーでもある。若くして子育てに奮闘してきた彼女にとって娘の成人はひときわ感慨深く、自分のシングルマザーとしての半生も肯定された気がしていた。ミセスのためのコンテストであるミセス・インターナショナル/ミズ・ファビュラス(以下、ミセス・インターナショナル)にシングルマザー部門があると知ったのは、そんなときのことだった。

「子育てが一段落して、シングルマザーとして感じてきたことも発信していきたいと思うように。年齢や未婚/既婚にとらわれない女性の美を追求するミセス・インターナショナルは、そのための最高の舞台でした。出場者の女性たちが心身ともに美しく、パワーにあふれる人たちばかりだったことも、エントリーの決め手になりました」

大会までの道のりは「素の自分」と向き合う日々

▲大好きなお菓子やお酒も制限。美のために生活習慣をまるごと変えた

恵梨さんにとって、ミセス・インターナショナルははじめてのミスコン出場。まずはそれまでの生活習慣をゼロから見直すことにした。食材の質や添加物にまで気を配った自炊に減酒、早寝早起き……。内側から美しくなるために、できることはすべて実行した。コンテストにエントリーする前は、お菓子やお酒が大好きで、夜更かしが当たり前だった彼女。はじめは我慢を強いられる生活に戸惑いも感じたが、今では健康的な暮らしがすっかり板についたのだという。

「美意識が高くなると、生活も変わるものなんですね。肌も髪も、毎日食べるものから作られる。そう考えると、少しでも質のよいものをとりたくなりました。小麦粉を使わないグルテンフリーのお菓子を選んだり、料理に発酵食品を取り入れたり。そのためにいろいろ調べたり、話を聞いたりするのも楽しかったです」

やると決めたら、とことんやり抜く性格だという恵梨さん。ドレス選びからそれを着こなすための体型づくり、魅力的なウォーキングやポージング、自分の信念を余すところなく伝えるスピーチ方法まで、研究を重ねる日々がはじまった。なかでも力を入れたのが、ウォーキングとスピーチの練習だった。

▲スピーチやウォーキングの練習は「自分と向き合う訓練」

「歩き方や言葉の選び方には、生き方があらわれると思うんです。自分に自信があるか、思いやりややさしさをもっているか。そういう素の自分が、舞台ではいやおうなしに出てしまう。小手先のテクニックでは、到底取り繕えないものなんです。だから自分のイヤな部分と向き合って克服することも、大事な訓練のひとつでした」

スピーチの原稿づくりにも苦心した。イメージを具体的な言葉に落とし込めずに悩むのは、曲づくりのときと同じだった。葛藤をくり返しながらも迎えたコンテスト当日。恵梨さんはグレーを基調としたドレスに身を包み、まばゆいばかりの笑顔を振りまいていた。惜しくも入賞は逃したが、華やかな立ち姿と芯の強さを感じさせるスピーチで観客を魅了した。

人前に立つのは慣れているはずだったが、コンテストの緊張感は別格。肩に力が入って思いどおりのパフォーマンスができず、悔しさの残るステージだったという。ミスコンへの挑戦は終わったが、まだまだ勉強を続けて自分を磨きたいという恵梨さん。何に対してもまっすぐに取り組み、向上心にあふれる彼女らしいコメントだと感じた。

ミスコン出場で仕事への取り組み方も変わった

▲大会当日、ステージからまばゆいばかりの笑顔を振りまく恵梨さん

恵梨さんは現在、MVの撮影やライブの準備に奔走している。コロナ禍で大きな打撃を受けているエンタメ業界。そんな業界に恩返しをするためにも、また自粛生活に疲れた人たちを元気づけるためにも、今まで以上に精力的に活動したいのだという。

「コンテストに出て、今まで自分が周りの人に支えられて生きてきたことを身に染みて感じました。こんなときだからこそ、私も誰かを支えたい。幼い頃の私が音楽に生かされたように、歌うことでやりきれないつらさや悲しみに寄り添いたい。そのためにできることは何か、常に考え続けています」

音楽への強いこだわりのあまり、自分で自分を追い詰めてしまうこともある。クオリティには妥協したくないけれど、時間が足りない。頭の中にある思いを、うまく言葉にして伝えられない。いっしょに作品づくりに携わるメンバーとも、何度となく衝突した。柔軟になれない自分がイヤになることも、一度や二度ではない。

「誰かといっしょに物事に取り組むのは、簡単なことじゃない。1人ひとり、価値観も信念も違いますから。でもミセス・インターナショナルに出て、みんなで目標に向かっていくことのすばらしさを知ったんです。自分だけではがんばれないときも、仲間がいれば乗り越えられる。仕事への姿勢も変わったかもしれません」

そうほほえむ恵梨さんは、女性らしいしなやかさにあふれていた。自身のつらさや悲しみを努力と行動力で乗り越え、クリエイティビティに変えてきた彼女。ミセス・インターナショナルで得た経験もまた新たな楽曲を生み出し、誰かの人生を変えるのだろうか。その日が待ち遠しくてたまらない。

伊藤 桜子 Sakurako Ito

ローズ・クルセイダーズ/一般社団法人国際女性支援協会 代表理事外資系航空会社の客室乗務員を経て、外資系投資銀行勤務。Best Body Japan 日本大会グランプリ(クイーン)/ミセス・インターナショナル2015 日本代表を務めた経験を持つ。みずからの経験をもとに、年齢や立場、国籍などの枠にとらわれない女性の美を追求する。

編集協力/株式会社Tokyo Edit

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COLUMNIST

伊藤 桜子