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「情けは人のためならず」には根拠があった! 人助けをするとしあわせになれる、これだけの理由

2021.08.02

2021.08.02

「情けは人のためならず」には根拠があった! 人助けをするとしあわせになれる、これだけの理由

人助けをすると、なんだかいい気分になったという経験がある人は多いだろう。先人も「情けは人のためならず」という格言を残している。じつはこれには、れっきとした科学的根拠があるということをご存じだろうか。人を助けると、助けた人のストレスは大幅に減り、心身が健康にまでなるというのだ。人助けをするとしあわせになれる――この記事ではそれを裏付ける事例とともに、今日からできる人助けのアイデアを紹介する。

人助けをする人は、心身の健康度が高い

いまや国民病と言っても過言ではないほどかかる人の多い、うつ病。ステファニー・ブラウンとディラン・スミスがうつ病患者に対して行った研究によると、人助けをした人はそうでない人よりも、うつ症状から早く立ち直った。また、透析を受けている患者のうち人助けを日常的に行う人は、そうでない人に比べてうつになりにくいことがわかった。

また、別の研究では、思春期にボランティア活動をした人は、反社会的行動や薬物乱用、学業不振を免れるという報告もある。人助けの経験が、社会性や物事の善悪を正しく判断する力を育てたと考えられる。心身が健康になるということは、寿命が長くなることにもつながる。アメリカ・コーネル大学の研究によると、週に1回ボランティア活動をする女性は、奉仕活動の習慣がない女性と比べて長生きで、身体的機能も高いことがわかった。

なぜ、人助けをすると心身が健康になるのだろうか。鍵になるのは、気遣いや思いやり、やさしさといったプラスの感情だ。人助けをすると、こうした肯定的な感情が自然とわいてくる。これが、ストレスのもとになるマイナスの感情を追い出してくれているのではないだろうか。マイナスの感情とは、怒りや憎しみ、妬みといった敵意だ。こうした感情に日常的に支配されていたら、それだけでストレスがたまるだろう。それが取り払われることで心身が健康になるというのは、うなづける話だ。

実際に、敵意が健康を害することは、多くの研究によって証明されている。直接的な原因は、コルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンの増加だ。敵意の強い人の体内にはこうしたホルモンが多く分泌され、それが冠動脈疾患やがんの一因になるというのである。ストレスホルモンの増加は、精神の安定や免疫力の維持をつかさどるセロトニンの分泌も妨げる。ストレスホルモンのもとになる敵意を遠ざけることこそが、心身の健康につながるのだ。

誰かに助けの手を差し伸べるとき、むき出しの敵意を抱いているという人は少ないだろう。人助けをする人の体内は思いやりや愛で満たされていて、敵意が入り込むスキがないほどなのだろう。ストレスホルモンの分泌もおのずと抑えられている。それによって心身が健康になっているとしたら、まさに「情けは人のためならず」を地で行く話だ。

「人助けの輪」は依存症や精神疾患の治療にも活用されている

「情けは人のためならず」は、普遍的な理論としても認められている。代表的なのは、1965年にF・リースマンが提唱した「ヘルパー=セラピー原則」だ。人助けというと、助ける側が何かを与え、助けられる側がそれを受け取る関係だと考えられがちだ。しかし、リースマンはそうではなく、助ける側もまた、人助けをすることによって何かを受け取っていると指摘した。

この原則を利用したのが、アルコール、薬物、摂食障害、ギャンブルなどへの依存症からの脱却や、悩みの共有を目的とした自助グループである。たとえばアルコール依存症の自助グループにおける治療では、ある患者が別の患者を励ましたり助けたりすることによって、そのような取り組みをしない場合よりも断酒のプロセスが円滑に進んでいくことが明らかになっている。同じような取り組みは、発達障がいや不登校、引きこもりの子どもをもつ親の会や、家族を亡くした人の会、セクシャル・マイノリティの会、精神障がいのある人の就職支援においても行われている。ヘルパー=セラピー原則によって効率のよい治療や悩みの緩和ができるうえ、仲間の存在が孤独感をやわらげ、第三者と密に関わることがその後の社会生活のシミュレーションになるという利点もある。

ところで、人助けをする側が受け取っているものとは、いったい何なのだろうか。その最たるものは「自尊心の回復」であると、リースマンは言う。人助けをすることで「自分はこの人の役に立っているんだ」ということを実感でき、それが自信につながるのだという。人の悩みを聞きながら、自分自身が抱える問題が整理されていくという効果もある。この効果は想像以上に大きく、リースマンは「人は援助することで最も援助を受ける」という言葉まで残している。

これを鑑みると、人は何か悪いことがあって自尊心が低下しているときほど、人助けをするといいということになる。自分が落ち込んでいるときに人助けなんて、と思う人もいるだろう。しかしそんなときこそ周りを見渡して、助けを必要としている人を探してみよう。うつむいていた顔を上げれば視野が広がり、それだけで気持ちが明るくなるはずだ。

人助けが習慣になる「いいこと日記」の作り方

人助けは、よい循環を生み出すものだ。誰かから親切にされた人は、自分もまた誰かに親切にしたいと思うようになる。そのきっかけをつくるのに役立つのが、人助けを習慣にする「いいこと日記」だ。この日記をつければ、人助けの感度が自然と高まり、必要なときに必要な人助けができるようになる。ぜひ試してみてほしい。

1.「できることリスト」をつくる

日記の最初のページを使って、自分が人のためにできることを箇条書きにしたリストをつくってみよう。このとき、自分が得意なことに着目するといい。イラストが得意なら「友人に似顔絵を描く」、ITに詳しければ「介護施設でスマホの使い方を教える」などもいいだろう。どんな人助けをしようか迷ったときの“ネタ帳”代わりになる。

2.人助けの場面をイメージする

つぎに、具体的な人助けの場面をイメージしてみよう。思い浮かべるのはす、過去に人からしてもらった人助けだ。感謝の気持ちがよみがえり、人助けへの意欲を高めてくれる。その後、これから自分がしてあげたい人助けについても想像してみよう。いざ人助けをする段になって、尻込みしてしまう人は多いものだ。普段から「人助けをする自分」をイメージしておくことで、チャンスを逃さず行動できる。

3.「いいこと日記」をつける

1日1人の人助けを目標に、それを記録するための日記をつけてみよう。友だちの悩み相談に乗った、家族の手伝いをしたといった小さなことでもいい。相手の反応がどうだったか、自分がどう感じたかも、忘れずに書いておこう。自分の人助けが相手も自分もしあわせにしているという実感がわき、つぎの人助けを促してくれる。


私が今している人助けは、望まない妊娠や出産・子育てをきっかけに精神的に追い詰められてしまった女性たたちを保護するマタニティホームでのボランティア活動だ。特に何かをするわけではないが、何も聞かずただそばにいてもらえるのがありがたいと言ってくださる方が多い。私も利用者の方々から元気をいただいている。周りのボランティアたちも生き生きと若々しく、人生を楽しんでいる人ばかりだ。誰かが誰かの支えになり、私自身もその輪の中で生かされていることを痛感している。

私たちは必ず誰かの力になることができ、また誰かの支えなくしては生きられない。社会で生きている以上、私たちは誰もが無意識のうちに支えられているのだ。人助けは人と人をつなぎ、社会を形づくる軸。この軸を強くするために身近なことから実践していきたい。そして、高齢でも障害があっても、人種や国が違っても、お互いに助け合い、許し合える社会を、私たちの手から作っていきたいと強く思っている。

著者紹介

川島 梨瑛 Rie Kawashima ● 臨床心理士/公認心理師。児童福祉領域および精神科領域で臨床実践に携わる傍ら、NPO法人子どもの精神分析的心理療法支援会にて精神分析を学び続ける。「観察と臨床基礎コース」修了。また一般社団法人「小さないのちのドア」にてボランティア活動を行う。

編集協力/株式会社Tokyo Edit

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COLUMNIST

川島 梨瑛