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「お祝いの席で割り箸はNG」の理由って? 京料理屋の女将が教える、マナーとおもてなしのコツ

2021.09.15

2021.09.15

「お祝いの席で割り箸はNG」の理由って? 京料理屋の女将が教える、マナーとおもてなしのコツ

マナーに自信がない、という人は多い。なんだか堅苦しい、面倒だという声もあるだろう。しかし、ただルールを覚えるだけがマナーではない。マナーの根本は、相手を思いやる心。少し知っているだけで相手を笑顔にし、よい関係を築くことができる。それは仕事でもプライベートでも必要な力ではないだろうか。私は18歳のときに京料理屋に嫁ぎ、女将としてたくさんのお客様をおもてなししてきた。その中で実践してきたおもてなしのコツや、日常で使えるマナーの覚え方の一部をお伝えしたい。

「お祝いの席で割り箸を使ってはいけない」のはなぜ?

お箸にはお祝いの席などで使う「ハレの箸」と、ふだんの食事に使う「ケの箸」がある。ハレの席でケの箸を使ってしまうと、お客様に対して失礼になってしまう。両者の違いやその理由をしっかり覚えて、おもてなしに役立てよう。

「ハレの箸(祝い箸)」と「ケの箸」の違いでもっともわかりやすいのは、その形状だ。ハレの箸が「両口箸」といって両端が細くなっているのに対して、ケの箸は「片口箸」と呼ばれ、片方の端だけが細くなっている。両口箸の形には、片方の端を神様が、もう片方の端を人間が使って同じ食事を味わうという意味が込められている。そうして神様が召し上がったものをいただくことで、ご利益が得られるという考え方から、お祝いの席にふさわしい箸とされてきた。「逆さ箸」はふだんの食事でもマナー違反だが、祝いの席では神様の箸を勝手に使うことを意味し、絶対にやってはいけないふるまいだ。

割り箸でないことや、角がない丸い形にも意味がある。割るという行為は「縁を切る」「二人の間を割る」などのネガティブな連想をさせるため、お祝いの席では割り箸は避けるべきものなのだ。丸い形には「角が立たないように=ご縁や物事が円満に進むように」との願いが込められている。

「ハレの箸」は材質も「ケの箸」とは違っている。めでたい席で折れたりしない丈夫な材質、縁起のよい材質が選りすぐられているのだ。たとえば正月のお祝いの席でよく使われる「柳箸」には、しなやかで折れにくい柳の木が使われている。柳は春一番に芽を出すことや「家内喜(やなぎ)」の語呂合わせから、縁起がよいという理由もある。また、懐石料理の席で使われる「利久(りきゅう)箸」は杉の木で作られることが多い。お茶や料理を待つ間、杉の香りがお客様をもてなしてくれるからだ。

用意した箸は、しっかりとそろえて平行に置こう。日本では古くから、箸のこちら側は”俗”である人間の世界、向こう側は神聖な自然界と考えられている。箸はふたつの世界を隔てる「結界」で、食べものをいただくときは自然や食に携わる人たちに感謝するようにと教えられてきたのだ。食事のときの挨拶である「いただきます」や「ごちそうさまでした」にも、そのような思いが込められている。気持ちを込めて丁寧に挨拶をするのが、おもてなしをしてくれた人たちへのマナーでもある。

「畳のふちを踏んではいけない」驚きの理由

ちょっとしたマナーを知っていれば、日常生活の中でかかわる人にワンランク上の気配りができるようになる。挨拶など日常のさまざまな場面で使うのが「お辞儀」の仕方だ。特に手の置き方に注意してみよう。「右手を下に置き、その上に左手を重ねる」のが正しい置き方だ。

昔、武士は左腰に差してある刀を右手で抜いたことから、その右手を左手で隠すことで「あなたに敵意はありません」と伝えて友好な関係を築こうとしたのが、このお辞儀の仕方のはじまりだと言われている。また、日本人は右利きが多く、よく使う右手より左手を上にしたほうが美しく見えるという理由もある。お辞儀の仕方には諸説あるが、私は先人の思いがこもったこのスタイルが上品で美しい所作だと考えている。

誰かを自宅にお迎えするときに覚えておきたいのが「打ち水」の意味だ。打ち水とは、玄関先にまく水のこと。一般家庭ではあまり見られなくなった習慣だが、これにもれっきとした理由がある。よく知られているのは、夏場に涼をとるためだ。地面からの熱気を抑えるために水をまき、気化熱を使用して涼しく感じさせる。水をまくことで土埃が立ちにくくなるという利点もある。また、神道では場を清めるために水をまくという考え方もあった。玄関先への打ち水は、お客様へのおもてなしの一環でもあるのだ。同時に、これからいらっしゃるお客様に対して「すべて準備が整いました」ということを示す役割もある。打ち水をされた玄関先を見て、お客様は「もう入ってもいいのだな」と安心して呼び鈴を鳴らすことができるというわけだ。

お客様を部屋にお通ししたら、座布団に座ってもらうこともあるだろう。このとき気をつけたいのが、座布団の「向き」だ。座布団には4辺があるが、そのうち1辺だけ縫い目のない「輪」になっている辺がある。その辺を正面にして並べるようにしよう。向かい合った相手とのあいだに線引きがないということから、「あなたとのご縁をつなぎたい」という気持ちを伝えるものとされている。

部屋の中では、敷居や畳のふちを踏まないように気をつけよう。これらはその家の象徴であり、世間や他人との境界でもあるのだ。実際に畳のふちには、その家の家紋がはいっていることもある。昔はこれらの場所を踏む気配を忍びの者が察知して、家に危害を加える者として刃を刺すこともあった。今はそれほどではないにせよ、不用意に敷居や畳のふちを踏むことはその家や家族を踏みつけることと同じ。どなたかのお宅を訪問するときはもちろん、自分の家でも踏むのは避けたいところだ。

着物の襟合わせで迷わない、とっておきの覚え方

着物を美しく着こなすことも、おもてなしのひとつ。着物を久しぶりに着るときに誰もが迷うのは、襟の合わせ方ではないだろうか。「右前」で着るのが正解だが、「右が上」だと勘違いしてしまう人も少なくない。ここで言う「前」とは「先」のこと。「先に右を合わせる」というのが正しい解釈なのだ。右手が襟元(ふところ)に入れやすいほう、と覚えるといい。貴族は左前、庶民は右前と見た目でわかるようにしていた頃の名残だ。

亡くなった方に着せる白装束は左前だが、これは「亡くなったときくらい、庶民も貴族と同じ格好で送ってあげよう」という配慮から。通常着物を着るときは、やはり右前で合わせるようにしよう。油断しやすいのは、写真だ。正しく着ているのに、反転の加工を施したばかりに左前になってしまった写真をSNSなどで見かけることがある。せっかくの美しい着物姿が台無しにならないよう、注意しよう。

着物を選ぶときは、TPOを意識することが大切だ。着物にも箸と同じく「ハレの着物」と「ケの着物」があり、その中にも格の違いがある。まずは「ハレの着物」を紹介しよう。既婚女性が着るものでもっとも格式高いのが「黒留袖(くろとめそで)」だ。結婚式で親族や仲人の方が着ている着物、と言えばイメージしやすいだろう。

黒以外の色で袖に模様がある「色留袖(いろとめそで)」は黒留袖よりは格が下がるもののお祝いの席にふさわしく、既婚・未婚問わず着ることができる。これに対して「振袖(ふりそで)」は、未婚女性の第一礼装である。成人式のイメージが強いかもしれないが、結婚式やパーティーなどで着るのにもピッタリの着物だ。このほか一枚の絵のような華やかな模様・デザインが特徴の「訪問着」も、あらたまったお祝いの席にふさわしい。お茶会やカジュアルなパーティーの装い、お子さんの七五三や入学式なら、シンプルなデザインの「付下げ(つけさげ)」や白・黒以外の色で柄のない「色無地(いろむじ)」を選ぶのもいい。

これに対して、普段着としても使える「ケの着物」もある。型を使って模様をつけた「小紋(こもん)」や染めた糸をひねって柄をつくった「御召(おめし)」、紬糸が織りなす縞模様や格子模様がトレードマークの「紬(つむぎ)」などは、ちょっとおめかしして出かけたいときに気軽に着られる着物だ。出かける場面に応じた着物の種類を覚えて、ぜひ着物を着る機会をふやしてほしい。

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日本に古くからあるおもてなしの仕方やマナーにはすべて理由があり、それは思いやりや感謝の気持ちにつながっている。細かい所作やルールを覚えるのは面倒に思えるかもしれないが、それは相手への敬意をあらわし、よい関係を築くためのもの。この精神を多くの人に共有できれば、世界も平和になると信じている。この記事をきっかけにあなたも日本文化を学び、より豊かな人間関係を築いてほしい。

著者紹介

藤本 ゆかり Yukari Fujimoto ● 着物帯バッグクリエイター。1979年生まれ、京都府出身。祖母の影響で幼少の頃から着物に親しむ。18歳で京料理屋へ嫁ぎ、3人の息子に恵まれる。現在は、着物帯バッグクリエイターとして活動する傍ら、長年の女将の経験を活かして着物文化を中心に、世界に誇れる日本の文化を次世代へ繋げる活動をしている。

編集協力/株式会社Tokyo Edit

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COLUMNIST

藤本 ゆかり