Intelligence

わが子がもっと愛おしくなる! 助産師YOSHIMIが教える「がんばらない子育て」

2021.09.15

2021.09.15

わが子がもっと愛おしくなる! 助産師YOSHIMIが教える「がんばらない子育て」

必死の思いで出産したと思ったら、すぐに貧血や会陰の痛み、全身筋肉痛に悩まされ、3時間ごとの授乳。その後の子育てにも悩みはつきものだ。助産師でみずからも働くママであるYOSHIMIさんによると、子育てには「ま、いいか」の精神が大切なのだという。仕事を通じて多くの母子と関わる彼女に、ママが心穏やかに子育てをするための心構えやコツを聞いてみた。

知ってるだけで子育てがラクになる「2つの心がけ」

妊娠してうれしくて、赤ちゃんが産まれてくることを心待ちにしていたママ。でもいざ産んでみると産後の育児は想像以上に大変。出産時のいきみによる全身筋肉痛に加えて会陰は歩くたびにズキズキと痛み、慢性的な貧血でフラフラなのに、3時間ごとの授乳の時間は容赦なくやってくる。眠いし乳首や乳房は痛いし、ごはんを食べる時間もない。おむつも替えたしおっぱいもあげたのに、どうして泣くの。もうこっちが泣きたいよ……と落ち込んでいる人も多いのではないだろうか。心身が本調子ではないなかで、慣れない子育てに不安や孤独を感じるのは自然なことだ。

誰かに頼ろうにも、核家族化が進んで近所付き合いも希薄になっている今は、そういう存在が身近にいないというママも多い。気軽に愚痴を言い合える友だちがいない。いよいよ辛くなったときに、子どもを預かってくれるじいじ・ばあばもいない。頼みの綱のパパも、仕事で疲れていて話を聞いてくれなかったり、夜泣きに気づいてくれなかったりする。ネットには情報があふれていて、何が正しいのかわからなくなる……。そうして自分ひとりで育児のストレスを抱え、心に余裕が持てなくなっていくのだ。

気づけばわが子を愛おしいとも思えなくなり、ママから笑顔が消えていく。赤ちゃんはそれを敏感に感じ取る。「ママ、疲れているのかな……」と感情を抑え込み、泣くことをやめる子もいるほどだ。そのうちママと赤ちゃんのコミュニケーションは減り、また愛情を感じにくくなるという負の連鎖。本来はお互いに愛し愛されるはずの母子がそんなふうにすれ違ってしまうのは、とても悲しいことだと思う。

ママに心穏やかに育児をしてもらうためには、どうすればいいのだろうか。助産師としてたくさんの母子と接してきた私が行き着いたのは、ふたつの答えだった。ひとつは「ま、いいか!」の精神で育児をすること。もうひとつは、頼れるものは迷わず頼ることだ。このふたつを心がけてもらうだけで驚くほどたくさんのママに笑顔が戻り、「子育てがラクになりました」というよろこびの声も多くいただいている。

育児や家事を「手抜きする」「人に任せる」のは悪いこと?

「ま、いいか!」の精神。これは読んで字のごとく、理想どおりいかなくてもそれはそれでよし、と割り切ってほしいということだ。なんだ、そんなことかと思われるかもしれないが、わが子を大切に思うママにとってはこれが難しい。健康のために規則正しい生活をさせたいと思うし、できれば食事の栄養バランスにもこだわりたい。いつも掃除の行き届いた部屋で遊ばせてあげたいし、しつけもしっかりしたいと思ってしまうからだ。自分が大変だからという理由でこれらをあきらめることに、罪悪感をもつママも多い。

「頼れるものは迷わず頼る」というのはどうだろうか。子育てに困ったときに頼れるのは、ママ友やじいじ・ばあばだけとは限らない。外食やレトルトの離乳食や幼児食、子どもを預かってもらえる保育園、家事や育児を代行してもらえるシッターサービス。働くママが増えている昨今は、育児をサポートするサービスがたくさんある。しかしこちらもやはり、罪悪感から頼ることをためらうママが多いのだ。

育児の悩みのもとになっている、ママの罪悪感。これをなくすためには「子育ては1人でするものではない」を社会の常識にするべきだと思っている。子どもが生まれたばかりなのに育児も家事も完璧なママなんて、いるはずがない。いくら子どもを愛していても、疲れるときは疲れるし、つらいものはつらい。特に目も見えず言葉も話せない、泣くことでしか気持ちを伝えられない赤ちゃんは“リトルモンスター”だ。家族や親族はもちろん、行政や民間のサービス、私のような専門のアドバイザーなど、巻き込めるものはすべて巻き込んでちょうどくらいに考えておこう。

また「手抜きは悪」という思い込みもなくしてほしい。育児や家事を上手に手抜きするスキルは、長い目で見るとむしろ必要不可欠だ。あきらめたり投げやりになるのではなく、今までより少しだけ大ざっぱになること。ほこりひとつ落ちてたって死ぬわけじゃないし、外食やレトルト食品だって毒じゃない。ちょっとくらい洗濯物や食器を溜めてしまっても、誰に迷惑をかけるわけでもない。いまや洗濯なんてボタンひとつでできるんだから、パパにお願いしてしまうのもアリだ。買いものだってネットスーパーでパパっと済ませてしまえば、浮いた時間をリフレッシュに使うこともできる。

家族のために大切なのは、完璧に家事や育児をすることではない。ママが笑顔でいることなのだ。そのために疲れたときや困ったときは声をあげればいいし、助けてと手をあげればいい。甘えられる人がいるならとことん甘えればいいし、利用できるサービスやサポートはどんどん利用すればいい。たくさん人たちに支えられて守られて、母子は成長するのだ。それが当たり前になってこそ、女性が活躍する社会も実現すると思う。

ママが「自分らしくいること」は子どもにとっても大切

女性がいつまでも生き生きと輝くために大事なこと。それは、ママになっても「子どもの母親」ではなく「ひとりの人間」として見てもらえる環境だ。「もうママなんだから」とやりたいことをガマンさせられるような環境は健全ではない。ひとりの女性は、たくさんの顔を持っている。“ママ”というのは、そのうちのひとつに過ぎないのだ。ママになったからといって、何かをあきらめることはしなくていい。自分が自分らしくあることを第一に、子育ても家事も仕事もおしゃれも全部やればいいと、私は思う。もちろん健康や体調には気を配ってほしいが、気持ちのうえではとことん欲張りでいいのだ。

ママが自分らしく輝くことは、子どもにとっても大切だ。24時間365日、ママがつきっきりでいっしょにいるだけが愛情とは限らない。大事なのは、どれだけ子どもと向き合って、心を通わせているかどうかだ。イライラして子どもに当たってしまった次の日は、時間の許すかぎり子どもの話に耳を傾けよう。そしてギュッと抱きしめながら「大好きだよ」「愛してるよ」と伝えてあげればいい。子どもは私たちが思う以上に、ママのことをよく理解している。心を込めて接すれば、子どもはちゃんとわかってくれるはずだ。

最近は、仕事と育児の両立に悩むママも多いだろう。子どものペースが第一の育児と、時間の制約がある仕事との相性は最悪で、両立は簡単なことではない。私も仕事をしながら4人の子どもを育ててきたが、本当に目まぐるしい毎日だった。食事は家事の合間に立ったままとり、お風呂あがりは子どもの世話に気を取られて、裸で部屋をウロウロ。朝起きてから布団に入るまで、一度も座っていない日も珍しくなかった。疲れのあまり、帰宅後メイクも落とさず寝落ちしていたこともあった。

でもここまで息切れせずに来られたのは、育児のほかにも自分の世界を持てたからだと思う。助産師や看護師の仕事、講師の仕事。それぞれが視野を広げてくれたし、新しい出会いや人とのコミュニケーションが育児ストレスも緩和してくれた。離れている時間があるからこそ、子どもが全身全霊で自分を求めてくれる時間のしあわせさ、貴重さにも気づくことができた。甘えん坊でママ大好きっ子だった長女は、今春で高校生。私が夜勤に出かけることに気づくと玄関まで着いてきて、全力の泣き声で引き止めにかかっていたのに、いまや携帯片手に「いってら〜」と軽く見送るほどに成長した。

母親になっても輝く女性は美しいし、そんなママを見て子どもたちも笑顔になれる。それを多くの人に伝えるために、私は助産師・看護学校講師として活動している。産前・産後のケアはもちろん、その後の子育てへのサポートや学生への性教育、中絶についての発信も行い、母子が笑顔で過ごせる環境をつくっていきたい。子育ての方法も生き方も、“自分流”でいいのだ。自分の心が満たされていれば、ほかの人が言うことや育児書に書いてあることと違っても、まったく問題はない。ママたちよ、がんばりすぎないで。あなたの太陽みたいな笑顔こそが、お子さんとご家族を、そして社会を明るくするのだから。

著者紹介

YOSHIMI ● 助産師・看護学校講師。京都府出身の45歳。4年制大学の英文科を卒業後、看護学校に入学。新しい命を間近で迎える仕事に魅力を感じ、助産師となる。2021年4月、看護師長に就任。プライベートでは1男3女のシングルマザー。

編集協力/株式会社Tokyo Edit

1,416 view

COLUMNIST

YOSHIMI