中型バイクを颯爽と乗りこなし、パートナーは15歳年下のアメリカ人。昨年60歳を迎えた丹羽佐十子(にわ・さとこ)さんは、エイジレスな女性の象徴だ。ディレクターとしてコンテスト現場にかかわる筆者が 出場者の葛藤と成長をお届けする連載、第2回の主役は彼女。自分を「価値のないオバサン」だと思っていた佐十子さんがコンテスト出場を機に自信を取り戻し、心身ともに生まれ変わっていくさまを追う。
自分は「価値のないバツイチのオバサン」だと思っていた
「最初はね、“コンテスト? 派手好きな人たちの自己満足かしら”なんて思っていたのよ」
佐十子さんはいたずらっぽく笑いながら、そう打ち明けてくれた。褐色の肌に栗色の髪がよく似合う彼女。昨年還暦を迎えたとは思えない、若々しいオーラを放っている。明るくおおらかで、それでいて包み込むようなやさしい笑顔がトレードマークの佐十子さん。しかし、昔は感情を表に出さない、内気な少女だったのだという。
「高校生の頃は、笑うと目がなくなるのが大キライだったの。美人じゃないから、女性に生まれてこなければよかったと思ってた。でも今では、そんな自分もいとおしいのよ。なにしろ、努力のしがいがあるでしょう。0.1ミリの変化だったとしてもあきらめたくない、もっとキレイな自分になりたい。そう思えたのは、コンテストに出たからかしら」
プライベートでは、離婚を経験。「バツイチで年のいったオバサンを本気で好きになる男なんていないよ」と、心ない言葉もかけられた。たしかに自分は若くないし、特別な才能があるわけでもない。価値のない人間なんだ――。いつもうつむいていた少女の頃と同じように、胸がチクリと痛んだ。そんな佐十子さんの顔を上げさせてくれたのは、15歳年下でアメリカ人のパートナーとの出会いだった。
「私の価値も幸せが何かも、私が決める。彼といると、心からそう思えるようになったんです。つらいことも悔しいこともたくさんあったけど、だからこそ今があるのかもしれない。一度きりの人生、もっと挑戦していかなきゃって」
60歳で無縁だと思っていたコンテストに挑戦
佐十子さんに出会った日のことは、今でも覚えている。彼女は私が講師をつとめるエクササイズ教室の生徒だった。友人から誘われてフラリと参加したという佐十子さん。はつらつとした雰囲気とトレーニングウェア姿でも際立つ美貌に、ミセス・インターナショナルへの出場を勧めずにはいられなかった。
「そのときの桜子さんといったら、まるでチャーリーズ・エンジェルみたいに格好よかったのよ。コンテストなんて私には無縁の世界だけど、私もまた夢をもってもいいのかな。こんな素敵な人が言うなら挑戦してみようかなって。何より、話を聞いてワクワクしたし、心が動いたんです。何もわからなかったけれど、すぐに参加を決めました」
しかし、コンテスト初参加の彼女にとって、そこからの道のりは平坦なものではなかった。ウォーキングやスピーチのレッスンをはじめるもうまくいかず、落ち込む日々。場違いなところに来てしまったと、憧れだけで参加を決めた自分を悔いた。
それでもやっぱりがんばろうと思ったところに、新型コロナウイルスの拡大による大会延期。ウイルスの影響は日に日に深刻になり、延期後の開催もあやぶまれる事態だった。準備が間に合っていなかった佐十子さんは、内心ホッとしていた。
「もうきっと開催されないだろう、それなら今の見苦しい姿で舞台に立たなくてもいいと思ったんです。でも、そういうことじゃないですよね。コンテストは自分とのたたかいだから、大会当日だけではなく準備期間も本番。そう思いなおして、ウォーキングとスピーチの練習を再開しました。 私は何を大切にしていて、何を表現したいのか。ふだんの言動は、ファイナリストとしてふさわしいか。準備をしながら、そんなことを毎日考えていました。自分と向き合うのって、正直いって大変。でも、今振り返るととても充実した時間だったと思います」
子どもたちが夢をもてる世界を目指して
大会が開催されたのは、延期発表から2か月後のことだった。シルバーのきらびやかなドレスをまとった佐十子さんは、堂々の表情。ミセス・インターナショナルの60代部門であるノーブルクラスでベスト3に入賞した。
「やってみてよかった、と心から思いました。思い思いに表現する、個性豊かな美しい女性たち。それを尊重し、応援するパートナーやトレーナーの先生方、協賛してくださる企業様の存在。ミセス・インターナショナルの大会は、“すべての人は大切に扱われ、愛される価値がある”というメッセージにあふれていました」
ミセス・インターナショナルに出場して、夢をもつよろこびを思い出したという佐十子さん。今後は子どもたちが夢をもち、失敗を恐れずに挑戦できる世界を実現したいという。
「私には2人の孫がいるのですが、いっしょに過ごしていると無限の可能性を感じます。その可能性を最大限に生かすには、知識や教養が必要だと思うんです。どんなにサッカーの才能に恵まれた子どもも、サッカーの知識や教養がなく、その才能を生かす方法を知らなければ、優秀な選手にはなれない。私は教育へのアプローチや情報発信で、すべての子どもが自分の可能性を信じ、夢をもてる世界にしたいと思っています」
私は生きているうちに、あと何度挑戦できるのだろう。明日はどうなっているかわからない。佐十子さんを見ていると、もっとチャレンジしなくては、もっと人生を楽しまなくてはという気持ちになってくる。
「生きていれば、つらいことや悲しいこともあるわよね。どうせ避けられないのなら、全部ひっくるめて楽しんでしまったらどうかしら。大人になっても年を重ねても、チャレンジすることをあきらめなくてもいいのよ。いつからでも、あなたは自分の望む自分になれるんだから……って、いつも自分に言い聞かせているのよ(笑)」
そう言いながら、茶目っ気たっぷりに笑う佐十子さん。年を重ねるごとにエネルギッシュに、若々しくなっていく理由がわかったような気がした。これから先、彼女は何に挑戦して、どんな世界を見ていくんだろう。年齢はただの数字――佐十子さんを見ていると、それがまぎれもない真実なんだと確信させられる。
伊藤 桜子 Sakurako Ito
ローズ・クルセイダーズ/一般社団法人国際女性支援協会 代表理事外資系航空会社の客室乗務員を経て、外資系投資銀行勤務。Best Body Japan 日本大会グランプリ(クイーン)/ミセス・インターナショナル2015 日本代表を務めた経験を持つ。みずからの経験をもとに、年齢や立場、国籍などの枠にとらわれない女性の美を追求する。
編集協力/株式会社Tokyo Edit