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40代女性歯科医師がミスコン出場を決めたワケ「見たことのない景色を、見てみたかった」

2021.05.20

2021.06.12

40代女性歯科医師がミスコン出場を決めたワケ「見たことのない景色を、見てみたかった」

福岡の40代女性歯科医師がミスコンでグランプリを獲得――。ドラマのワンシーンではなく、現実の話だ。ディレクターとしてミスコン現場にかかわる筆者がミスコン出場者の葛藤と成長をお届けする連載、今回の主役は河合志保(かわい・しほ)さん。地元の北九州市で「しほデンタルクリニック」の院長をつとめる42歳だ。臆病で引っ込み思案だという彼女を、スポットライトが映える美女へと変えたものは何だったのか。

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歯科医師としての夢を阻む「臆病な自分」

「バイキンがいなくなって、歯がよろこんでる!」

「しほ先生、ありがとう」 治療を終えた子どもたちの笑顔に、思わずほおが緩む志保さん。小児歯科部門をもつしほデンタルクリニックには、小さな子どもも多く訪れるのだ。診察室に入ってきたときには不安げだった表情が、帰るころにはすっかり明るくなる。それが何よりもうれしかった。治療をしているはずが、気づけば自分のほうが子どもたちから元気づけられていた。

▲小児歯科医師として子どもたちの歯の健康を守る志保さん

未来ある子どもたちを1人残らず守りたい。そんな思いのもと、志保さんは再生医療用に歯の細胞を保管しておく「歯髄幹細胞バンク」の普及を目指している。歯髄幹細胞は増殖能力が高いうえ、骨や神経、脂肪などさまざまな細胞に変化できる。乳歯が生え変わるタイミングで歯髄幹細胞バンクを利用すれば、子どもたちが将来大きなけがや病気をわずらったとき、自分の細胞を使って組織や臓器を再生させることができるのだ。

しかしその認知度の低さから、利用者はまだまだ少ない。志保さんは、情報発信の必要性を感じていた。バンクについて1人でもたくさんの人に知ってもらうことが、自分に元気をくれた子どもたちへの恩返しにもなるはずだ。でも、私なんかがたくさんの人に向けて、何かを発信するなんて……。ためらっているうちに、時間だけが過ぎていった。そんなときに知ったのが、ミセスのためのコンテストである「ミセス・インターナショナル/ミズ・ファビュラス(以下、ミセス・インターナショナル)」だった。

内面も重視、異色のミスコンへの挑戦で生活が一変

ひと昔前のミスコンといえば、顔立ちやスタイルに恵まれた美女だけのものと思われていた。しかしミセス・インターナショナルは、そうした旧態依然としたミスコンの概念を覆す存在だ。特色は、外見だけでなく内面的な要素も重視されること。スピーチ審査では、自分の考えをしっかりと伝える能力、社会貢献に対する意識などが審査項目になっている。

「今までの臆病な自分ではダメだって、気づかされたんです。歯髄幹細胞バンクの普及という目標に近づくためにも、一歩前に踏み出す勇気がほしい。くよくよ迷ってばかりで行動できない自分を、根本から変えたい。ミセス・インターナショナルへの出場が、そのきっかけになるような気がしたんです」

とはいえ、すぐに出場を決めたわけではなかった。「私なんかがミスコンなんて」「自分には絶対に無理だ」と、臆病な自分がことあるごとに顔を出す。できるだけ波風立てず、平和に過ごしたいという気持ちとも葛藤した。応募締め切りを目前に迷う志保さんの背中を押したのは、先に出場を決め、コンテストに向けて努力を重ねる先輩たちの姿だった。

「ある出場者の方が、半年間かけて、最後の最後まで声をかけつづけてくださったんです。そのおかげで、ここで挑戦しなかったら後悔すると思えた。彼女のサポートなしには、私は今も以前と変わらない、臆病な自分のままだったと思います。本当に感謝しています」

▲パーソナルトレーニングで健康的なスタイルと正しい姿勢をキープ

一度やると決めたら、最後までやり遂げる性格の志保さん。出場を決めてからは、コンテストの準備に没頭する日々がはじまった。多忙な仕事のかたわら、週に2回のパーソナルトレーニング。ウォーキングやスピーチに向けて、ポージングや発声にも磨きをかけた。人前に出る以上、肌や髪のケアにも気を抜けない。スケジュールは朝から夜まで埋まっていたが、それほど疲れは感じなかった。

「目標ができたのがよかったんでしょうね。出場を決めたとたん、体脂肪率も体重も大幅減。これまでダイエットには成功したためしがなかったのに、自分でも驚きました(笑)。40歳を超えてこんなに思い切った挑戦ができるなんて、思ってもみませんでした」

オンライン投票1位、40代部門グランプリ獲得の快挙

▲大会当日、ステージでポーズを決める志保さん

前途洋々に見えた志保さんだったが、予想外の壁が立ちはだかった。新型コロナウイルスの拡大によってコンテストが2か月延期されたうえ、オンライン開催になったのだ。他の出場者とも思うように会えない日が続き、志保さんは動揺を隠しきれなかった。大会当日まで不安な気持ちをやわらげてくれたのは、SNSだった。

「会う前からコメントなどでやりとりをしていたおかげで、すぐに溶け込めました。地方からの参加者は少なかったし、キラキラと輝いている出場者のみなさんに気後れしていたところもあったんです。でも実際に接してみると、気さくであたたかい方ばかりで。延期で会えない2か月で、出場者同士の絆がより深まった気がした。本当にうれしかったです」

そうして迎えた大会当日。ミセス・インターナショナルでは一般的なドレス審査のほかに、フィットネスウェア姿で健康美を競うフィットネス審査、自己表現力や発信力を競うスピーチ審査がある。趣味でベリーダンスをたしなむ志保さんは、ドレス審査ではベリーダンサーらしくしなやかに、フィットネス審査では笑顔で元気にと心がけた。

スピーチ審査では、かねてから思い描いてきた歯髄細胞バンクの可能性について訴えた。歯科医師としての問題意識と女性としてありたい姿、克服したかったコンプレックス。すべての点が線になり、つながった瞬間だった。結果として、志保さんはオンライン投票で6542票を得て1位に。40代の未婚・既婚女性を対象とする同大会のヴィーナス部門でグランプリを獲得した。

▲40代クラスのグランプリを獲得し、笑顔を見せる志保さん

「まさに、今まで見たことのない景色。勇気を出して挑戦してよかったと、心から思いました」

コンテストを経て、考え方や生き方を見直す機会がふえたという志保さん。自分にできる社会貢献活動としてはじめたボランティアの清掃活動は、大会後も続けている。地元のために、未来の子供たちのためにできることは何か。人を思いやる気持ちとはどんなものか。ゴミを拾っているとそんな気持ちになるのだと語る彼女の横顔は、以前にも増して輝いていた。内省と挑戦をくり返すたび、女性は美しくなる。そう信じずにはいられない。

伊藤 桜子 Sakurako Ito

ローズ・クルセイダーズ/一般社団法人国際女性支援協会 代表理事外資系航空会社の客室乗務員を経て、外資系投資銀行勤務。Best Body Japan 日本大会グランプリ(クイーン)/ミセス・インターナショナル2015 日本代表を務めた経験を持つ。みずからの経験をもとに、年齢や立場、国籍などの枠にとらわれない女性の美を追求する。

編集協力/株式会社Tokyo Edit

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COLUMNIST

伊藤 桜子