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自分らしく輝き、しあわせな人生を送りたい――誰もがそう願っている。しかし、しあわせは実感するのは意外にもむずかしい。お金、モノ、地位、名誉。傍目からはすべてを手に入れたように見えても、心に空虚さを抱えている人もいる。それもそのはず、心理カウンセラーの小林明日香さんによると、しあわせになるにはまず心を整えることが必要なのだという。「しあわせを感じられる心」を育てるにはどうすればいいのか。小林さんががいつも心に留めているという偉人たちの名言に触れながら、その心構えを紹介する。
※名言の解釈は筆者独自のものです。
1.目に見えることが真実とは限らない
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ」――サン・デグジュペリ
言わずと知れた名作『星の王子さま』の一節だ。言葉、表情、しぐさ。わたしたちは「目に見えるもの」を手がかりに相手の気持ちを想像する。しかしそれはあくまでも「想像」だと肝に銘じておかないと、思わぬ落とし穴にはまってしまう。真実は得てして目に見えないところに隠れているものだからだ。
たとえば、大事なプロジェクトで失敗をして上司から大目玉を食らったとしよう。「いつも叱られてばかりで頭に来る」と怒って済ませてしまうのは簡単だ。でも、本当にそれでいいのだろうか。
そんなときは、ちょっと視点を変えて「上司はなぜ怒ったのか」を考えてみてはどうだろう。怒るのにもエネルギーがいるものだ。上司はあなたに期待しているからこそ、今叱ることが必要だったのかもしれない。あなたなら、厳しい言葉をバネにしてもっと成長してくれると期待していたのかもしれない。そう考えると、怒りよりも感謝が生まれてくるはずだ。
見えないものを受け取る感受性は、プライベートでも大切だ。たとえば育児を経験した人なら、言うことを聞かない子どもに怒鳴ってしまったことがきっとあるだろう。そんなとき決まってシュンとしょげ返るのは、子どもではなく親のほうだ。「感情的に怒鳴ってしまった」という罪悪感から自己嫌悪に陥り、子育てへの自信まで失ってしまう人もいる。
一方で「この子が言うことを聞かないのが悪いのよ」「パートナーの協力が足りない」「仕事が忙しくてストレスがたまっていたせいかも」などと、誰かのせいにして気持ちを収める人もいる。しかし、これはあくまでもその場しのぎの解決法だ。繰り返すほどに自分で自分を暗示にかけ、周囲への憎悪が募るという怖さもある。
こんなときは、表面からは見えない自分の気持ちをとことん深掘りしてみてほしい。なぜ子どもに怒鳴ってしまったのか。根本には子どもへの愛情があるはずだ。心身ともに健康で、社会に出ても困らない人になってほしい。誰からも愛される人になってほしい。そんな抑えきれない思いが「怒鳴る」という形で溢れ出してきてしまったのではないだろうか。
つまり、悪いのは自分でも周囲でもなく「怒鳴る」という行動だったのだ。それがわかれば、感情のコントロールもしやすくなる。子どもが同じような言動をしても冷静さを保ち、愛情を前面に出した声かけができるだろう。
自分の心の持ち方次第で、見えないものが見えるようになる。人や自分の本当の気持ちはその最たるものだ。大事なのは周囲を変えようとすることではなく、自分の意識を変えること。自分の人生のハンドルを自分で握ることなのだ。そうすればマイナスよりもプラスに目が行くようになり、世界がもっと美しく見えてくる。あなたの未来もおのずと明るくひらけてくるはずだ。
2.自信に勝る成功の法則はない
「君は自分が思うより勇敢で(中略)賢い」――アラン・アレクサンダー・ミルン
児童文学作家のアラン・アレクサンダー・ミルンが代表作『クマのプーさん』の中に遺したのが、このメッセージだ。どんなときも、自分が自分の一番の味方でいるーー簡単なようでなかなかできないことではないだろうか。
人生には幾度となく試練が訪れる。新しいチャレンジをすれば、周囲の反対にあうこともあるだろう。そんなときこそ自分の心に寄り添い、ありのままの自分を肯定してあげることが大切だ。
「ありのまま」というところがポイントで、いい格好をする必要はまったくない。不安や妬み、自信のなさ。そういうネガティブな感情も自分の一部として、認めてあげてほしいのだ。「将来病気になったらどうしよう」「あの人はすごいなぁ。それに比べて自分なんて……」こんな気持ちが湧き上がってきても否定しなくていい。むしろその感情にとことん寄り添って、「そういうところも含めて好きだよ」と言ってあげよう。
ネガティブな感情は、高い理想を持っていることの裏返しでもある。理想があるからこそそれとかけ離れた自分がイヤになるし、到達しているように見える人が妬ましくなるのだろう。でも本来、そんなに高い理想を持てる時点で十分すばらしいのだ。他の誰かと比べて上か下か、という話じゃない。ネガティブな感情の裏に隠れた「私はまだまだできる!」という向上心の強さを、自分の長所として認識してほしい。
それができれば、あとはアウトプットの仕方を変えるだけだ。向上心をネガティブな感情として放出するのではなく、具体的な行動に変えてみよう。理想に近づくために何をすればいいかを考え、ひとつひとつ実行していくのだ。
夢や理想に向けて行動する人は、ただ語るだけの人とは比べものにならないくらい輝いている。歩みが遅くても、途中で立ち止まってしまってもいい。「自分」という強い味方の存在を心の支えに、一歩、また一歩と前進していこう。
3.足りないものを求めるより、今ある幸せを感じる
「君の中には、君に必要なすべてがある」――ヘルマン・ヘッセ
『車輪の下』で知られるドイツ生まれの作家ヘルマン・ヘッセが遺した言葉がこれだ。自分の内面と向き合えば、どんな悩みもおのずと解決するーーそう教えてくれるような、示唆に富んだ一文である。
不遇、困難、迷い。人生に壁が立ちはだかったとき、私たちはとかく解決の糸口を自分の外に求めがちだ。辛い局面では、それが折れそうな心を守る手段になったりもする。「これがあればもっとしあわせだったのに」「これができれば、不運にあうことはなかったのに」……そんなふうに足りないものを数えることで気を紛らわし、今の不遇を正当化しようとする人は多い。
でもそんなときこそ自分の内面と向き合い、今手元にあるものの価値を見つめ直すチャンスではないだろうか。そもそも「不遇」というのも、自分がそう捉えているだけのことだ。生きていること、着る服があること、今日1日を大事なく過ごせたこと。これらは紛れもない奇跡である。目の前にあるものを丁寧に味わい、足りないものをむやみに追い求めるのをやめれば、「不遇」は「しあわせ」に変わっていく。
しあわせへの近道は、何かを得ることではない。ともすると見過ごしてしまいそうな小さなものに目を向け、感謝できる感性を持つことなのだ。不平や不満が湧いてきたら、自分の心に聞いてみよう。「あれ、私、しあわせの種を見過ごしていないかな?」と。
4.物事の表層ではなく、本質を見よう
「美しい景色を探すな。景色の中に美しいものを見つけるんだ」―ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
物事の本質を見抜く能力は、人生に必要なもののひとつだ。オランダの画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホもその思いを名言に込めている。美しい景色を探すよりも、景色の中に宿る「美」そのものを追求せよーー生涯にわたって絵を描き続け、独自の手法による風景画を多く遺した彼らしいメッセージだ。
なかでも多くの人に必要なのは、しあわせの本質を見抜く力だ。しあわせになりたいという人は多いが、ではしあわせとは何かと聞かれれば答えに窮する。たしかに「しあわせとはコレだ!」という万人に当てはまる解はなく、難しい問いである。
しかしだからと言って、何かもわからないしあわせをいたずらに追い求めていては、いずれ道に迷うのが当然だ。手当たり次第に道を進んでは疲弊し、どの道を行っても満たされない心にモヤモヤを抱えることになる。
迷いの中で見つけた「しあわせ」は、ごくごく表面的なものであることが多い。立派な肩書きや豪華な家・車……こうした「結果」は目に見えてわかりやすく、まだ軸の定まっていない心に「これこそ探していたものだ!」と思わせる引力にあふれているからだ。
しかし私は、しあわせの本質とは「結果」ではなく「過程」にあると思っている。強い思いをもって目標を立て、そこに至るまで努力したこと。辛いときも前向きでい続ける姿勢。そういうものが積み重なって形になったものが結果なのだ。同じ結果にたどり着いたとしても、人それぞれ過程は違う。そこに“その人らしさ”があらわれる。そう考えると、本当に大切なのは結果そのものではなく過程のほうだとおわかりいただけるだろう。
過程の大切さに目を向けられれば、結果にばかり囚われなくなる。「結果が出ればしあわせだが、そこに向かっている今も十分しあわせだ」と思えるようになってくる。たとえ思うような結果にならなかったとしても、その中でよかったことを見つけられる。どんな状況にあっても、よい点に着目できるのだ。これこそがしあわせの本質。人生に悩み立ち止まったときにこそ、思い出してほしいことだ。
5.失敗を恐れず、何度でも挑戦しよう
「人生の栄光は、転ぶたびに起き上がり続けることにある」――ネルソン・マンデラ
人種差別の根絶に生涯を捧げ、黒人としてはじめて南アフリカ共和国の大統領になったネルソン・マンデラ。その前代未聞の活動は多方面からの反発に遭い、彼は30年近くもの牢獄生活を送ることとなった。しかしマンデラは権力に屈することなく、何度でも立ち上がった。これは、こうした彼の人生哲学が凝縮された言葉である。
マンデラほど壮大なものでないにしても、私たちはそれぞれが大変な状況に立ち向かい、悩んだり苦しんだりしている。そんなことが続くと視野も狭くなり、「もうダメかもしれない」と考えてしまいがちだ。しかし落ち着いて考えてみれば「もうダメ」なんてことはほとんどない。ひとつの方法が失敗に終わったならば、また別の方法でチャレンジすればいいだけだ。
転んだら起き上がればいい。そう言うのは簡単だが、実際にはむずかしいことだ。一度失敗するとものの見方がネガティブになり、起き上がる気力すら湧いてこないこともある。「やっぱり自分になんてできるはずがない」と自信はなくなる一方。マイナスの材料ばかりを探し集め、あきらめることが正しい判断だと思い込んでいく。
でもそれは、あくまでも「ネガティブな見方」で考えた結果だ。これをポジティブな見方に変えてみたらどうだろう。今までピンチだと思っていた状況が一転、千載一遇のチャンスに見えてくる。あたらしいチャレンジをしたくてたまらなくなって、転んでうずくまっていたのに気づけば起き上がっているのではないだろうか。
出来事は変えられないが、あなたの感情や捉え方で、状況はいくらでも変えることができるのだ。どんなに大変な状況でも、逃げずに前を向き、自分には乗り越えられると捉えることができたのなら、必ずチャンスになっていくはずだ。
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これまで紹介した5つの名言に共通するのは、自分の心を自分で満たすという自立の精神だ。周りの人や出来事、社会ではなく自分のものの見方を変えることで、状況を好転させていく。そうすれば、どんなときでもしなやかな幸福感にあふれる人になれると信じているからだ。
ここで忘れてほしくないのは「あなたの最大の味方はあなた自身」だということ。自分で自分を満たすと言っても「誰にも頼らず自分ひとりでがんばらなきゃ」と意気込む必要はない。むしろどんどん甘えてもいいのだ。自分のダメなところも受け止めて、肯定してあげよう。そうすれば心が満たされていき、ものの見方も自然と前向きになってくる。
自分の心が満たされていれば、人にもやさしくなれる。愛を受け取った人はまた別の人に愛を伝え、愛の循環が起きる。こうして子どもやパートナー、友人、同僚、地域と愛情の輪はどんどん広がっていき、いつか世界中の人がしあわせになれる時代が来ると、私は信じている。あなたもぜひ、その輪に加わってほしい。
著者紹介
小林明日香 Asuka Kobayashi ● 心理カウンセラー・歯科衛生士。アドラー心理学をもとにした歯と心のコミュニケーションサロン「DH-style」を主宰し、公式ホームページやブログ、YouTube、LINEなどでの発信を行う。3人の子育てをしながら、医療・教育機関、企業向けの講演会・研修や個人向けの講座を全国各地で開催し、好評を博する。人生をもっと豊かに、華やかにデザインする会員制オンラインサロン「More Happiness Revolution(モアハピレボリューション)」オーナー。著書に『子どもも自分も愛せなかった私へ』がある。ミセス・インターナショナル/ミズ・ファビュラス2021ローズ・クルセイダーズ賞、ミズ・ワールドユニバーサル2021グランプリ受賞。
編集協力/株式会社Tokyo Edit